電磁的記録

【戻る】

◎電磁的記録まとめ




・電磁的記録=電子的方式、磁気的方式その他、人の知覚によっては認識するこ
          とができない方式で作られる記録であって、電子計算機による情報
          処理の用に供されるもの。  例:データファイル


234−2 電子計算機損壊等業務妨害罪

 人の業務に使用する電子計算機若しくはその用に供する電磁的記録を損壊し、若しくは人の業務に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正な命令を与え、又はその他の方法により、電子計算機に使用目的に沿うべき動作をさせず、又は使用目的に反する動作をさせて、人の業務を妨害した者は、5年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。

 ☆独立して情報処理を行うコンピュータに限る。
  ∴他の器械の一部に組み込まれているマイクロ・コンピュータは除かれる。

・手段:@コンピュータ又は電磁的記録の損壊。損壊にはデータの消去も含む)。
    A虚偽の情報・不正な指令を与える。例:HPのデータの書き換え。
    Bその他の方法。例:電源の切断、温度・湿度などの環境の破壊、
              処理不能のデータの入力。
・業務を妨害するおそれのある状況を生じさせれば足り、現実に妨害の結果を
 発生されたことを要しない(判例)←争いあり。
 →マジックホン利用の結果10円の支払いを免れた場合、成立。



246−2 電子計算機使用詐欺

 246条に規定するもののほか、人の事務処理に使用する電子計算機に虚偽の情報若しくは不正の指令を与えて財産権の得喪若しくは変更に係る不実の電磁的記録を作り、又は財産権の得喪若しくは変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供して、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者は、10年以下の懲役に処する。

・行為:@電子計算機に虚偽の情報若しくは不正の指令を与えて、財産権の得喪、
      変更に係る不実の電磁的記録(=一定の取引場面でその作出により事
      実上財産権の得喪、変更が直接的に生じる電磁的記録)を作ること。
     A財産権の得喪、変更に係る虚偽の電磁的記録を人の事務処理の用に供
      する行為。

・具体例
 @銀行のオンラインシステムに虚偽の振込送金情報を与えて財産上不法の利益
  を得たり(=預金残高を増やす)、
  (☆預金残高が増加するだけでは、事実上利益を得る可能性のある状態が生
    じたにすぎず、未だ利益を取得したとは言えないということになろうが、
    本条は電算システムの特殊性を考慮して、利益の概念を広げた。)
 A信用金庫支店長が、入金事実がないのに支店当座預金係に同支店設置のオン
  ラインの端末機を操作させ、預金入金があったとする情報を与えたり、
 Bプログラムを改変して預金を引き出しても残金が減少しないようにすること。

☆本条は二項詐欺が成立しないときのみ成立する。∴他者を欺罔して虚偽のデー
 タを入力させると二項詐欺のみ成立。
☆本罪によって虚偽の預金を得た者がその後引き出す行為は不可罰的事後行為。
☆娯楽目的等、事務処理目的以外の目的に使用するものは含まない。
☆預金元帳面ファイルは、これにあたる。
☆財産権の得喪、変更を公証する目的で記録するにとどまるもの
   (不動産登記ファイル→公正証書原本不実記載)、
 一定の資格を証明するにために使用されるにすぎないもの
   (キャッシュカード→電磁的記録不正作出)はこれにあたらない。

☆偽造テレカの使用は本罪。作成自体は、電磁的記録不正作出罪。

☆機械を操作して振込。カードを盗んで引き出し→本罪。
 cf.カードを盗んで振替。カードを偽造して振替→不正電磁的記録供用。



162T 有価証券偽造罪
 行使の目的で、公債証券、官庁の証券、会社の株券等その他の有価証券を偽造し、
又は変造をした者は、3月以上10年以下の懲役に処する。


・問題の所在
 不正内容のカードを大量に他者に売却する行為は、自ら不正作出行為(161−2T)を行ってはおらず、さらに電話機での使用もしていないため、161Vの不正供用罪にも該当しない。
 そこで、変造有価証券交付罪で処罰し得ないか、が問題となった。



・プリペイドカード(テレカ等)は有価証券の当たるか?
 電磁的記録は文書性が否定されている。従来、有価証券も可視性・可読性を重視する「文書」の一部であることが前提とされてきたので、電磁的記録はそもそも有価証券にあたらないのではないか?
 思うに、理論的に有価証券が文書でなければならない、ということはない。文書とは言えない有価証券も十分に存在しうる。
 では、カードのいかなる部分が財産権を表示しているのか?
 表示部分を中心に考えるのか、それとも、磁気部分を中心に考えるのか?
   →両者が一体となって財産権を表示するとする一体説(判例)。 
   ∴テレカは有価証券。ホワイトカードは有価証券ではない。


・磁気部分の改変が変造にあたるか?
 テレカの磁気部分に記憶されている利用可能度数の無権限の変更は、一体説を採用すれば、変造に当たる。この点、たしかに有価証券の罪が公共の信用を保護するものである以上、人が真正なものと誤信するような外観がなければ変造とはいえない、とも思える。しかし、改変を加える権利の内容は、必ずしも券面に表示されたものである必要はない。思うに、処罰に値する変造行為には、「重要部分を改変する」という要素と、「一般人をして真正なものと誤信せしめるだけの外観の作出の二つが必要。テレカの磁気情報の改変は、重要な部分を改変し権利の内容を不正なものとしつつ、外観上は真正の有価証券の形態を維持している。
 ∴変造と言いうる。


・テープ貼付の不正カードは変造にあたるか?
 テープ貼付の不正カードは、外観上不正なものと分かるので、一体説を採ると真正な有価証券の外観を有しないので、有価証券変造罪に当たらないとも思える。
 しかし、ホワイトカードとは異なり、一般人が真正なものと誤信する程度の外観を有するので、変造に当たる(判例)。



163 偽造有価証券行使罪

 変造テレカの行使
 一体説を採り、可読性を部分的にせよ要求する限り、「人に対する行使」の要件を欠くことは許されず、「機械に対する行使」は認め得ないのではないか?
 しかし、有価証券偽造・行使罪の保護法益は、@有価証券(制度)に対する国民の信頼であるが、A当該証券の直接の関係者の利益も考慮しないわけにはいかない。
 この点、真正のテレカの外観を有する不正の電磁情報を持ったカードが多数出回ることは、カードの対する国民の信頼を大きく失わしめるが、ホワイトカードの流布はそれをほとんど伴わないので、それを作成しただけでは、有価証券偽造とは評価されない。しかし、ホワイトカードの使用は、Aの面の侵害に関しては、真正の外観を有するテレカの使用と差がない。そして、行使罪には、偽造罪の場合に比し、Aの直接的な利益侵害の側面が重視され、@の面の法益侵害性が強くなくともその成立が認められ得る。
 ∴ホワイトカードも、有価証券であれば行使罪を構成しうる。ただ、ホワイト
  カードは有価証券ではないので、行使罪の構成要件該当性を欠くのである。
 テレカをカード式公衆電話機に挿入して電話をかけることがテレカの本来的用法であることは誰も疑いがない。


 偽造テレカの交付
 交付罪の成立には「行使の目的」が必要であり、そのために不正作出されたテレカのカード式公衆電話機への使用が「行使」に該当するのかが問題とされる。
 例えば、金券ショップに販売する際、「交付された相手が当該変造カードを『真正のカード』として他人に販売すること」を行為者が認識していれば、その販売行為が「行使」にあたるため、「行使の目的」を認めることができる。しかし、行為者にそのような認識があると認定し得なかった場合には問題となる。その場合には、最終的に当該カードを取得した者が変造されたカードであると認識しつつ通話に利用することを「行使」とせざるを得ないからである。





文書偽造の罪

文書=文字又はこれに代わるべき符号を用い、ある程度持続的に存続することの
   できる状態で、意思又は観念の表示をしたもの。
  ∴電磁的記録自体は可視的ではないので、文書にはあたらない。

157T 公正証書原本不実記載等罪
 公務員に対し虚偽の申立てをして、登記簿、戸籍簿その他の権利若しくは義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせ、又は権利若しくは義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録に不実の記録をさせた者は、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
 
 →自動車登録ファイル等   
☆人の知覚を持って認識することができないものに限られる。
 ∴パンチカード、バーコードは該当しない。



161−2 電磁的記録不正作出罪
T 人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を不正に作った者は、5年以下の懲役又は50万円以下の罰金に処する。
U 前項の罪が公務所又は公務員により作られるべき電磁的記録に係るときは、10年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処する。

・客体:人の事務処理の用に供する権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録。
    (「人の」=行為者以外の者のことで法人を含む。)
  (「事務」=財産上、身分上その他、人の生活に影響を及ぼしうるすべ
        ての仕事。私文書偽造と同様、権利、義務又は事実証明に関
        する電磁的記録に限定)

 ☆キャッシュカード大のプラスチック版にビデオテープを貼りそれに暗証番号
  や銀行番号を印磁した行為、勝馬投票券の磁気情報の改変→本罪成立。
    前田は、電磁部分の改変も有価証券偽造にしないと刑の不均衡が生ずる
   として批判する。。

・行為:「不正に」=事務処理を行おうとするものの意思に反して、権限を与え
           られることなしに、あるいはその権限を濫用して電磁的記録
           を作出すること。
 ∴内容虚偽の記録を作る行為も含む。
           cf.記録の破壊や消去は文書毀棄の問題となる。
   :「人の事務処理を誤らせる」という目的が必要。

・公電磁的記録には、自動車登録ファイル、特許登録ファイル、住民基本台帳
 ファイル等がある。


161−2V 不正電磁的記録供用罪
 不正に作られた権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を同一項の目的で、人の事務処理の用に供した者は、その電磁的記録を不正に作った者と同一の刑に処する。

・行為:「用に供する」=不正に作出された電磁的記録を他人の事務処理のため、
    これに使用される電子計算機で処理しうる状態におくこと。
 例:不正作出された偽キャッシュカードをATMに挿入する行為。
       不正勝馬投票券を投票券自動払戻機に挿入する行為。
cf.偽造テレカを金券業者に販売する行為は変造有価証券行使。

・他罪との関係
 →電磁的記録不正作出罪とは、牽連犯。
  電子計算機業務妨害罪・電子計算機使用詐欺とは、観念競。


過去の記事 | 試験共用掲示板息抜掲示板試験関連資料リンク 】